満員電車のようで満員電車でない話

2002年6月25日 00:00
小説】 | Mr. FULLSWING

朝のラッシュに比べればはるかにマシなのだが、不快感を感じる程度に混んでいた。
出るも入るも、人を掻き分けなければいけない。
人に揉まれ、揺られる。

そんなハンパな満員電車(正しくは満員ではないが)に、辰羅川と犬飼の二人は乗っていた。

何故、この電車に乗っていたか。
その理由はこの話を語るに当たって必要ないから省略しよう。

犬飼は、ドアの前、通路のほぼ中央に人に押された形で居た。
辰羅川はドアのすぐ側、偶然空いた椅子に座っていた。

そして、辰羅川はずっと笑いを堪えており、
犬飼はずっと不機嫌な顔をしていた。

何故か。

電車と言うものはブレーキをかけるときに乗客は前へ傾く。
出発するときに後ろへ傾く。
ここはカーブの多い路線だった。
左に曲がるとき乗客は右へ傾く。
右に曲がるとき、左へ傾く。

これを慣性の法則と言う。
細かい原理は長くなりそうなのでやめておこう。

犬飼は、両手に荷物を持っており、つり革をつかめなかった。
別に人に身を任せて居ればよかったので危険はないのだが。

今日はたまたま乱暴な運転をする運転手であった。
いや、乱暴と言うと失礼だから、大雑把、と言うことにしておこう。

これが、辰羅川の笑みと、犬飼の不機嫌な顔に関係ある。

曲がったりするたびに電車は揺れた。
乗客は大きく傾いた。
椅子に座った乗客は前に、後ろに、傾いた。
つり革が揺れた。

そして、その揺れたつり革は犬飼の頭に当たる。

背の高さが背の高さなのか、またはつり革は犬飼に恨みでもあったのか。
それほど狙いは正確であった。

曲がると、傾いた犬飼を追うようにつり革が体当たりをかまし、
反対側に曲がれば、犬飼はつり革に頭をぶつけに行く形になり、
それが戻れば反動でまたつり革が体当たりをかます。

犬飼としては今すぐにでもつり革に復讐、もしくは逃走したいわけだが
両手の荷物、適度に混んだ車内がそれを妨げた。

その意外にも固く、痛いつり革相手に犬飼の目に涙が浮かんだ。
そのあまりにもこっけいな友人の姿に、辰羅川の目に涙が浮かんだ。
(もちろん、笑いすぎの涙である。彼には同情する気などさらさらなかった。)